ワクチンについて調べて人類の叡智に感動した

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僕はアメリカに住んでいて、来週二回目のワクチン接種をする予定だ。しかし、親族の多くは日本にいて、ワクチンのワの字も聞いたことがないというような状態だ。改めて問われてみると、どうして日本でワクチン接種が遅れているのか、よく知らないし、ちょっと調べてみたいと思った。その途中経過を記して、詳しい人の意見を求めたい。

開発

まず、残念に思うのが、ロシアや中国、インドなど各国が曲がりなりにも独自にワクチンを開発した中で、どうして日本では独自のワクチンを作ることが出来なかったのかという話だ。

厚生労働省のまとめ資料を読むと、国内でも主に5つのプロジェクトが走っていて、2020年度に国が600億円の予算を付けて補助している事が分かった。日本医療研究開発機構という組織があるのを初めて知った。一次二次に分かれていて、補助の対象となったプロジェクトをみると大学や企業の名前が並んでいる。

ソフトウェア開発から外挿して想像するのだが、補助金を出すという形だけだと、やはり開発の速度を劇的に上げるというのは難しそうだ。もしくは、表に見えないだけで他の形でも支援があるのだろうか。ソフトウェアなら、必要な人・モノ・金は何でも出すから倍の速度で作ってくれと言われたら、一番役に立つのは即戦力となる人間だ。有望そうなプロジェクトの周りにすでに知識を持った人が結集するのも良さそうに思える。前述の厚生労働省のまとめ資料をみると、5つのプロジェクトには連名になっているものも多い。

また、国内でのワクチン開発に関して塩野義の社長がインタビューに応じていて、理由を語っている。

ここではまず、基礎研究能力が足りていなかったという意見が述べられる。これは想像しやすい。翻ってアメリカではどうだったのかというと、This American Lifeのエピソードで、アメリカの研究者が、2020年の1月に、スキー場でブーツを借りている間にCDCから連絡を受けて、ウイルスの開発に乗り出すという物語が出てくる。この人が解析した遺伝子配列をModernaに連絡して、数週間後にはテストするためのワクチンが完成して戻ってくる。なんでこんな速度で出来たかと言うと、この研究者は何年もコロナウイルスの研究をしていたからで、Modernaは何年もmRNAの研究をしていたからだ、という。納得しやすい理由だ。ちなみに、このmRNAの研究は長いこと日の目を見ていなかったという話をどこかで目にした気がするが、ソースは失念した。塩野義の社長が言っている基礎研究能力というのはこういう事だろう。

もっとも、企業としての大きさをみると、Pfizerは年商$41Bに対して武田製薬は$20Bだから、それほど日米で圧倒的な差があるようにも思えない。ネットワーク効果的な何かがあるのだろうか。よく分からない。

また、TALの話からもう一つ分かるのは、ワクチンの開発というのは、魔法の液体を作る作業より、それを検査・試験する方にずっと時間が掛かるという事だ。Modernaのワクチンは2020年1月の時点で液体は出来上がっていたわけで、残りの半年以上は試験をしていた計算になる。まあ、そうだよね。これに関連して、同じインタビューで塩野義の社長は、後発組は大規模な治験をする事が難しいという話をしていて、その理由が興味深い。治験の何処かでは、数万人を対象に、二重盲検でワクチンを投与する人と投与しない人を設定して経過を観察する必要がある。偽薬を投与された人の一定数はCOVID-19に感染し、中には死亡する人も出てくる。まさにそれらの人の犠牲によって試験中のワクチンの有効性が証明されるわけだ。しかし、すでに有効性が証明されたワクチンがあるなら、これは倫理的なのか、彼はそういう事を問うている。

一方で、すでに有効性が証明されたワクチンは存在するけど手に入らないならないのと同じ事じゃん、という疑問もわく。ワクチンの輸入計画を見てみると、夏頃には相当の数が供給出来ることになっているので、タイミング的には難しいところだ。今、あなたは治験に参加できます、50%の確率で、効果の程度がまだ未知数のワクチンにあたり、50%の確率で偽薬です。治験に参加しない事を選べば、数カ月後に95%の有効性がある事が分かっているワクチンを接種出来ますが、治験に参加した場合はそれは出来ません、と言われたらあなたは参加するだろうか。

彼の中ではもうこの問に答えは出ていて、日本では夏には手に入るかも知れないけど、世界で見渡せばそんな事は全然ないので、だから世界にワクチンを提供するために海外で治験をすべきだと言う。アンジェスのワクチンに関する記事でも同じような言及がある。そう言えば、先日、海外で治験というニュースが報道されていて、途上国での人体実験だ…みたいな反応も目にしたが、こういう流れで考えるととても理解できる動きだと思った。

生産

さて、すでに有効なワクチンがあるのに新しいのを開発する事に問題があるなら、すでにあるワクチンを国内で作れないの、という疑問が湧く。

既出の厚生労働省のまとめ資料を読むと、国内での生産体制の整備にも既に基金として1400億円の予算がついているのだが、この基金がどのように今の所使われているのか分からなかった。

同資料で国内生産が予定されている唯一の案件は、武田薬品がNovavaxのワクチンの製造技術移転を受けて作るものだ。国内での試験を始めたというニュースが出ている。開発元のNovavaxのワクチンはそもそもアメリカでもまだ承認されていないから、これは本当に色々な工程を圧縮している事が分かる。それでも、早くても承認・供給は2021年後半との事だ。

今既に広く使われているPfizerやModernaのワクチンを国内生産出来ないのだろうか?先日、ワクチンを巡って特許権を一時停止して海外生産を加速しようというニュースが出ていた。この動きに国境なき医師団やWHOも賛同しているとあるので、それなりに根拠のある話なのだろうが、実際にこれがどのような影響を及ぼしているのか調べないとよくわからない。僕の理解では、特許は原理上仕組みが公開されているので、特許だけが原因なら、どこかの国が許可を待たずに無視して作ってしまってもよさそうなものだ。それを誰が非難できようか。

だから特許以外の原因もあるだろうなと思うのだが、記事を読んでいくと、やはり製造そのものが難しそうだという印象を受ける。

過去のワクチンの製造技術移転についてみると、日本からはしかワクチンの製造技術をベトナムに移転するというJICAのプロジェクトが過去にあって、これは平時ではあったが4年掛かっている。機械、検査、人の教育、現地への医薬品適正製造基準への適合など色々な作業がありそうだ。

Pfizerのワクチンの製造についてはCNNから記事が出ていた。ワクチンを大量に製造するのが如何に難しいかというのが非常によくわかる秀逸な記事だ。なんとPfizerも世界でワクチンを作っているのは二箇所だけらしい。アメリカだってワクチンの生産を大急ぎで進めていたのだから、出来るのなら全米の複数ヶ所に工場を作っていただろうと思うので、やはりワクチンの工場を新設するというのは難しいのだろう。具体的に難しさを知りたい。

そして、Wikipediaの記事を読むと、自動車や携帯電話のように、ワクチンの製造にも様々な中間素材があって、複雑なサプライ・チェーンが必要なんだという事が分かる。そういえば、GMがサプライ・チェーン管理の能力を活かしてワクチンだか検査キットだかの製造スケールアップに協力しているという話もどこかで聞いたがソースは失念した。

同記事によれば、現在の所、最大のボトルネックはlipidsという原材料の不足とあり、確かにインド政府がワクチン原材料の輸出規制の解除を米国に求めたとあるので、同じ原料かどうかは知らないが、符合する話だ。

そういう難しさをすべて前提にした上で、Pfizerのアメリカの工場は現在の1300万ユニット/週の生産能力を今年中頃には倍増する予定とある。新しい工場と付随するサプライ・チェーンを立ち上げるよりは、既存の施設の能力アップを図るほうが短期的に確実そうではある。

Modernaは研究のみの会社で製造はライセンスに頼っているとあるので、おっと思ったが、それでも現在製造しているのはアメリカとスイスの二箇所だけらしい。それ以上は調べていないが、日本では製造できないのだろうか。

輸入

国内で開発も出来ないし、製造も出来ないならいよいよ輸入しかないわけだが、これはどうなっているのか。

厚生労働省は、去年の10月の段階では、Pfizerから6月末までに6000万人分、AstraZenecaから3月末までに1500万人分、Modernaからもかなりの数を供給してもらう事を協議しているとあるが、現在の供給見通しを見ると5月中旬までにPfizerから4000万人分とあるので、Pfizerについては供給ペースはむしろ上がっている印象だ。AstraZenecaとModernaの分はどうなったのだろうか。

同供給見通しによれば、ものの一ヶ月くらいの間で実に3600万人分の供給がなされるわけだから、同じペースで輸入が続くのなら更に数ヶ月後には国内総人口はカバーできそうに思える。だが、逆に言えば、資料にそういうスケジュールが書かれていないという事はこのあと追加の輸入の見込みは立っていないという事だろう。

アメリカでは、接種のペースがスローダウンして来ているので、前述した生産能力の増大と併せて、そう遠くないうちに国防生産法が解除されて国内生産分も海外輸出に回されるかも知れない。そうなれば日本が輸入する分も増えるとよいなと思う。

こうしてみてみると、日本の接種の遅れというのは要するにワクチンの購入競争に負けたという事であり、じゃあワクチンの購入競争はどういう風におこったのか、という疑問が湧いてくる。これを次に調べたい。

また、購入競争に負けたといっても、生産能力は急ピッチで増大しているので、何年というよりは何ヶ月程度の遅れになりそうだという印象を受ける。これには安堵した。また、なんだかんだいってもワクチンが購入できるのはお金があるからで、世界中にワクチンが行き渡るようにしようと思ったら、まだまだ道のりは遠そうだ。

総感

ここまで調べてみて、何時間かで分かる範囲ではそんなに大きな失敗は見当たらなかった。まあ、そうだよね。それぞれの持ち場でそれぞれの人がちゃんと頑張っていい仕事をしてくれているんだな、と感謝の思いが溢れた。今回は配送や接種の難しさについては調べていないが、同じような印象を持っている。

名前も知らない無数の人が、非難や大きな重圧に耐えながら必死で頑張ってくれているのだと思っている。Survivors’ guiltとでもいうか、もっと何か出来たのではないかと苦しんでいたりはしないだろうか。家からすぐそばのSanta Cruzの保健担当者が、個人的な脅迫などに晒されながらも市民を守るべく奮闘する話を読んだ。ブルーインパルスを飛ばしてまとめてお礼、というのもいいが、そういう奮戦している個人個人に、我々がそれぞれ個人的に感謝を伝えられたらいいなと思った。

ワクチンの開発も製造も、僕のような一般人が思っているよりは、ずっと高度なプロセスなのだ。今回調べてみてそういう印象を強くした。色々な瑕疵はあるにせよ、現代の科学や技術や組織力やお金や、言ってみれば人類の力を総動員して、わずか一年ばかりの間にワクチンを開発、検査、製造、輸送して何億人の腕に注射するという、途方もない試みを成し遂げつつある、その偉業に感激してしまった。1918年のSpanish fluから100年の間にここまで前進したのだ。そして、自分がその偉業に何も貢献していないのを恥ずかしく思った。

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