テクノロジー企業の墓場

(はてなブックマークやTwitterでの対話で詳しい人が色々教えてくれたのでそれに伴って改稿)

VMwareがBroadcomに8兆円(!)で買収されるというニュースが報道されている。

Broadcomは通信に必要なチップを寡占している地味なベンダという印象であったので、なんじゃそりゃと思ったら、2005年にプラベート・エクイティが作った会社が買収と売却を繰り返して急成長して、2015年にはBroadcomを5兆円で買収して社名を引き継ぎ、2017年には更にQualcommを買収しようとして米国政府に阻止され、2018年にはCAを買収、2019年にはSymantecを買収と、そういう流れである。

要するに、マーケットを寡占している製品を持つ低成長・斜陽の会社のIPを割安で買って、セールスもマーケティングもR&Dもお金のかかる事は全部辞めて、既存のお客さんからライセンス料をとれる間だけとろうという事だ。新規顧客も新機能も何も生まれなくなるが、他製品に逃げられないお客さんはライセンス料を払い続けるしかないわけである。良く言えば経営合理化、悪く言えばcash cow化。CAなんて全くこのビジネスモデルを体現した会社であったので、そこさえもBroadcomに買収されているというところがえげつない。ハーゴンがシドーに自分の身を捧げるみたいな古い話を思い出す。

“Continues Broadcom’s Focus on Acquiring Established Mission Critical Technology Businesses”

データセンター仮想化でVMwareの競合は事実上存在しないので、お客さんとしてはBroadcomの人質になったようなものである。恐ろしい事だ。

最近のVMwareはデータセンター仮想化の先行きが暗いのを知っていて、クラウドベンダーのロックインを避けるためのマルチクラウド化という視点で製品を売るようになっていたところを、自社の身売りを持って自らベンダーロックインの恐ろしさを証明してしまうというなんとも皮肉な結果に…。

あちこちの会社でデータセンターのクラウド化みたいなのはずっと号令が掛かっていたと思うが、これでいよいよお尻に火が付いているだろう。三大クラウドベンダの営業部隊は今頃電話を掛けまくっているに違いない。データセンターは本当にもう終わりで、だからそのマーケットから大きな収益を得ているCiscoやDellやNetAppの中から、今後数年のうちに叩き売られる会社が他にも出てくることになりそうだ。株価が下がっているからお買い得である。8兆円の叩き売りがお買い得というのもスケールがでかい話だけど。

いっそ、その辺の会社が生き残りを賭けて悪魔合体したほうが良かったんじゃないかと思えるくらいだ。よく考えたら、VMwareは以前はDellの子会社だったわけだから、その作戦は既に試されて失敗したという事か。

ところで、ソフトウェア産業では、衰退企業のお客さんが人質にとられるのは本当によくあるパターンである。SunがOracleに買収されたのは身近で体験したが同じパターンだ。Travisが買収された件も記憶に残っているし、直近では、PuppetがPerforceに買収されたばかり。Perforceだって、元はテック企業だったが、2016年にプラベート・エクイティに売却されているので、名前は同じだけど実態は別物の会社なのだ。

こういうのを見ると、ミッションクリティカルな用途ではやっぱりOSS+マルチベンダのコンソーシアムだなと思うわけである。Unix、Java、OpenStackと、このパターンになったやつはちゃんと衰退期に入っても人質にとられることなく細々とではあるが安定して続く体制が出来ている。GNUとかもここに入れてもいいかもしれない。Kubernetesも同じ理由で信用できるなと思っている。JenkinsもCDFという体制を作れて本当に良かった。

comments powered by Disqus