顧客視点でモノを考えてもらうには

知人のエンジニアリング・リーダーと話していたら、「エンジニアに顧客視点でもっとモノを考えてほしい、そこに芯を持ってほしい」と思い悩んでいた。その人がその短い言葉に込めた思いを全部理解したとも思わないが、僕もそういう気持ちは良く分かる。

現在の事業上の課題とは全然関係ない方向に情熱を燃やす人。そこはそんなに拘るところなの、と思うところに拘りを持つ人。まあ一定数見てきた。もっと全員で同じ方向を向いて同じ問題意識を持って…何とかならないのかなぁ。

わかります。

まさにそういうのを実現するのがエンジニアリング・リーダーの仕事ですよね。

僕も人様に講釈できるほど上手く出来ているとも思わないが、今までの反省からこういう道具が使えるんだな、という考えは幾つかある。

技術者の美意識・情熱というのは、宗教のようなものだから、布教が出来る。会社に望ましい方向に技術者の情熱を誘導してあげるということだ。例えば、お客さんの持っている問題を、過不足なく最小の手間で解決するのが、技術者の目指すべき姿である、というように。それは情熱をかけて追求するだけの価値のある姿である、というように。

そのための手段は幾つかある。

職位の言語化

技術者の肩書にランクを設ける。それぞれのランクについて、期待されるべき性質を言語化する。例えば、Launchableの最高位であるPrincipal engineerには、「他の職種の社員と仕事するに当たって、技術部を代表することが出来る」という項目がある。うちは小さなスタートアップだから、営業やマーケティングの人達と向き合って、技術部として出来る事をみつけたり、やるべき事を伝えたりするのは大事な仕事だからだ。うちでは、そういう技術者が偉い技術者だ。

現実の人間はイビツだから、高い職位の人だって望ましい性質と、望ましくない性質を両方持っている。言語化することで、偉い人の間違った部分をロールモデルにされる事を避ける。Sunの技術者の最高位であるSun Fellowの肩書を持っていたJames Goslingは、Javaという偉大な発明をしたが、一方で大きなチームワークを仕切る事はなかった。Sunの技術者がみんなJavaのような発明をするんだという間違った目標を持ってしまったら、会社は潰れてしまっただろう。だから、ちゃんと言語化する事が大事だ。

そうやって、偉くなりたい、お金をもっと稼ぎたい、そういう普遍的な気持ちに方向性を付けてあげる。

表彰

会社の求める性質を体現した人を、みんなの前で表彰する。表彰の対象になった仕事ぶりを、名前を伏せて物語風に話す。物語は人を引き込むし、みんなそれが誰か気になるから、人々の注意が惹き付けられる。そして、最後に劇的に名前を公表する。拍手。盾の贈呈。受け取った人には誇らしい瞬間だ。
職階の言語化だけだと、抽象的で伝わらない。だから、生身の人間の実際の活動にそれをマップしてあげる。こういう風にすればいいんだな、という事を具体化してあげる。いわば職位の言語化と対を成す取り組みである。

採用

採用の基準に手を入れ、望む特性を持つ人を採用していく。社員を朱色にしたら、残りの人達も段々朱に染まっていく。

採用のためのインタビューを現場の技術者達に任せていたら、みんな自分と同じような技術者を採用し始めて、気付いたら望ましくない性質を持つ人が増えてしまった。そうなってしまうと、数の力で、あるべき理想の姿の布教に負けてしまう。時間は掛かるけど採用基準を言語化したり、自分でやらないと駄目だ、と思った苦い経験だ。

メガホンを使う

偉い肩書があると、その立場を利用して社内の多くの人に一方的にメッセージを届けられてしまう。技術部を一同に集めて喋る。メールを送る。そういうメガホンを持っているというのが、肩書の力の一つである。なので、それを使う。

「顧客視点でモノを考えよう」みたいに言っても、それが何を意味するかは話者の思っている10倍位はあやふやなので、受け取り手には期待するようには伝わらないものである。じゃあどうするか。

具体例を話す。こういう事があった。顧客視点でモノを考えられていて良かったと感じた。それが会社にとって良い事に繋がった。逆にこういう問題があった。こういう風に出来ていれば結果が違ったのではないか。多くの人に向かって一方的に語りかけられる力は、強力だ。

似たような話を手を変え品を変え繰り返す。書き、同じ事を喋り、別な話を枕に同じ結論を繰り返す。メガホンは常時使っていると力が増してくる。

けしかける

口角泡を飛ばして話していると、あるいはこうすべきだという方向性をピッチしていると、そこここに、共感してくれる人、問題意識を共有している人が見つかる。そしたら、その人達を応援し、焚き付けて行動に駆り立てる。メガホンを使ってその人達にスポットライトを当ててあげる。

増えた同志が、自分とおなじ事をちょっと違う言い方で言ってくれ、ちょっと違うやり方でやってくれる。動きが広がっていく。ある程度の大きさの組織は、偉い人が直接出来る事は限られているから、こうして任せられる他の人を見つけていかなくてはならない。

皆さんどうしてますか

僕より経験の長いエンジニアリング・リーダーはたくさんいるだろう。皆さんはどうしているのか、秘伝の技をぜひ教えてほしい。

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